Short Stories

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最初の飛行機が生まれてから数十年後。  航空機を製造する工場に勤務していた若い男性が、勤務中にあるものを発見する。最初は誰かの落とし物かと気にも留められることのなかった、後に「機人石」と呼ばれる、ほとんどが手のひら大の大きさの鉱物のようなものだ。機人石は何人かの研究者によって研究が進められたが、決して割れることのない鉱物状の物体で、西暦2019年現在においても、地球上のあらゆる物質に該当しないまったくの未知の物質である。
 機人石はすみやかに発見された航空機メーカーで保管された。ロールアウト式典の際、保管されているガラスケースのなかで、室内を照らし尽くすような光度で明滅しているのが発見され、勤務していた男性の提案で、式典のあとに"元々あった場所"に戻した翌朝、そこにひとり、おおよそ6か月ほどであろう幼児が泣きもせずに存在していた。数ヶ月後、4歳ほどの見た目に成長した子供は、自らをその飛行機だと名乗った。最初は工場勤務の男性以外はだれもそれを信じようとしなかったが、子供がそれにかんしゃくをおこした瞬間、側にあった機体が作動し、付近にいた作業員をエンジンに巻き込んで殺してしまった。機体の直下にあった機人石が同時に大きく明滅していたことから、航空機メーカーでは公式にこの子供を「機人」と呼ぶことにし、メーカーにて管理することを決定した。
 それから数年間のあいだ、機人の子供がもたらす情報――たとえば、左脚が痛いと言えば、検査で主脚の左側に不良が見つかった――によって、航空機の開発は急激に速度を上げた。そして無事初飛行を迎えて半年後の、いつも通りの試験飛行のある日、機人とパイロットを載せたその航空機は、バードストライクによって墜落し、機体は完全に破壊され、パイロットも帰らぬ人となった。機体からは、パイロットの亡骸と、粉々に割れた機人石が見つかり、子供も二度と現れることはなくなった。機体が全損したときに機人石が砕けるという内容は世界各国で報告され、以降、機人は機体の「魂」として認識されるようになった。
 第一次、第二次世界大戦では付喪神のごとく崇められ、一方で個人所有の航空機に宿った機人は家族のように迎えられ、出自や目的、行動理念に差はあるが、現時点では数億とも言われるほどの機人達が人間に紛れて生活している。機人のほとんどが飛行可能な状態になった航空機の側に出現し、航空機の解体、全損をもって消滅する。人の形をもした人ならざるもの、その意思を表す石。


3Lいずれも抵抗がないので突然現れます。◆NL□BL■GL

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